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周浩暉「生死翡翠湖」

周浩晖「生死翡翠湖」 (2009?)

殺人事件発生の報を受けた刑事の羅飛は、現場となったリゾート地へ急行する。殺された遊び人の男は、妻の不審死によって巨額の遺産を手に入れたばかりで、生前の彼女から相談を受けていた容疑者は、現場から行方をくらましていた。

第五回全国偵探小説大賽最優秀中篇賞受賞作(最優秀短篇賞は水天一色「おれみたいな奴が」)。長篇にあったような派手な展開(事件の進行にも、真相開示にも)はないが、二転三転する捜査にぴしりと決まった台詞回しを配して危なげなく仕上げた一篇。 4
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陸燁華『今夜宜有彩虹』

今夜宜有彩虹 (豆瓣)

陆烨华『今夜宜有彩虹』(今夜、虹出づるによろし) (新星出版社、2017)

あてもなく街をさまよう「おれ」は、川に身を投げる男を目撃し、彼が残した持ち物を手がかりに家を漁ろうとする――小さな喫茶店で働く沈冰月は、赵と名乗る怪しげな客に翻弄されるが、彼の一言で状況は一変する。

独自のユーモア本格を追究する(ということでいいのだろうか)作者の初長篇。シチュエーションが喜劇的に展開していく男パートだったり、会話のユーモアを中心に展開する喫茶店パートだったり、二つのパートに共通する形式上の段取りの"はずし"だったりと、手数多く笑いを引き出していく姿勢。
同時に、謎解きの展開はガチガチとまではいかないが色々な切り口でしっかりした立て付けがされているし、シリアスや泣かせの場面もある。ただ手広い要素を盛りこみすぎた感じもあって、テンションの断層に今ひとつついていけないのはやや難……がもしかしてそれもギャグの一環か。4

訳しづらいタイトルである。東川篤哉『交換殺人には向かない夜』をもじっているらしいが、そのまま当てはめても語呂が悪いし、章題と合わせると明らかに占いを意識している文だし……

青稞「浮島幻想」

青稞「浮岛幻想」 (『推理世界』2016年1月B号)

岛田、东野、乙一、麻耶、行人、宫部と名乗る六人のミステリ愛好者たちが、湖に浮くコテージに集まっていた。しかし一晩が明けると参加者の一人が殺され、外界との連絡が絶たれたコテージでの推理合戦が始まる。

助走が極端に短く九割方を解決編が占める構成は他の作品でも試みているもの。大量のアイディアを純粋に見せるには有効な形なのかもしれないが、後半に至ると手数が増えるのに興趣が比例しないのは、トリックのフカし方や各自の綽名と推理のタイプをリンクさせる遊びが面白いだけにかなり残念。3 1/2

青稞『巴別塔之夢』

巴別塔之夢 (博客來)
青稞『巴別塔之夢』(バベルの塔の夢) (皇冠、2017)

幼少期の記憶を失っている青年の方遠は、ある日唐突に「バベルの塔の主」を名乗る人物から、多額の報酬とともにある「島」への招待状を受け取る。彼の相談を受けた探偵の陳默思とその友人の陸宇は、方遠とともに招待に応えることとなる。同様に招待を受けた男女たちが到着したのは、九階建ての塔が一つ建つだけの荒れた島だった。一同を迎えた男は、十年前、同様の塔が建つ孤島で暮らしていたある教団の存在について語る。その翌日から、島では不可能な状況での殺人が次々と起こりはじめる。

第五回島田荘司推理小説賞最終候補。作者は大陸在住の90年代生まれで、『推理世界』誌を中心に中短篇のかなり濃い本格ミステリを発表している。この作品も孤島で起きる不可能犯罪の連続に、目張り密室や「建築物詭計」についての講釈が挟まれ、なかなかマニアックな/先人への敬意を表した作り。
過去の因縁と現在の不可能な連続殺人を対比/連関する構成は同時に候補になった『歐幾里得空間的殺人魔』にも近いが、こちらは分量は少なめながら過去にかなり踏み込んでいく。章間に挟まれる夢の描写は眩暈感がよく出ている一方で、全体に物語の展開は直線的で、ストイックとも言えるが味気なさとも紙一重かも。
さて肝心の真相は、手が込んでいるのは確かで、一つの原理が解明されると様々な謎の糸口が掴める、という狙いも分かるのだが、細部の詰めにアンバランスな感じがあってエレガントさに欠けるのは否めない。選評の通り、生に近い形の発想をそのまま飲み込めるかが分れ目か。3 1/2

青稞「推理要在天黒前」

青稞「推理要在天黑前」(謎解きは夕暮れの前に、『推理世界』2016年4月B号)

夏の日の夕方、「僕」は大学の教室で、一人の友達が口にした「推理」の根拠を訊ねた──同じころ。「私」は親友を相手に、自分が入る前の教室で何が起こったかを推理していた。

開始すぐからひたすら推理推理推理のハードコアな一編。細かな点を拾い上げ、淀まずに進む推理の流れが心地よい。突然トーンが変わり告白で締める終わり方はいかにも唐突だが、ねじれた余韻があってこれはこれで。3 1/2
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稲村文吾

Author:稲村文吾
中国語で書かれたミステリを読んでいく日々。
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